5月24日の倶楽部総会では、倶楽部員でもある小説家の秋吉理香子さんのトークセッションが行われました。聞き手は、倶楽部理事の小林一則さん(昭55年政経)。抄録は以下の通り。
小林:今をときめく人気ミステリー作家の秋吉理香子さんにお越しいただきました。秋吉さんは宝塚市のお生まれで、お父様のお仕事の関係で、ロサンゼルス近郊の高校に進まれ、大学は芥川賞作家の三田誠広さんが教授を務める早稲田大文学部へ。卒業後はアメリカの大学院で映画・テレビ制作の修士号をとられ、帰国して、執筆活動に。2008年にデビューし、2013年に映画化された「暗黒女子」で一躍有名になられました。テレビドラマになった「絶対正義」など著作は21に上ります。小説家を志されたのはどうしてですか。
秋吉:小学生の頃から、小説を読んでいました。太宰治や三島由紀夫、カフカとかカミュ。暗くて重い話ですが、これが文学だと思って中学生のころには小説家になる決心をしていました。早稲田は大好きな三田先生がおられたので選びました。
小林:「イヤミスの女王」とも呼ばれていますね。ハッピーエンドでなく、もやもやした読後感が残るような作品で、嫌なミステリーの「イヤミス」。人気のジャンルですよね。
秋吉:イヤミスの女王って方は何人もおられるんですが、私もその一人に挙げていただいて光栄です。お金を払って、どうして、そんな嫌な思いがしたいのだろうと思うんですけどね。
小林:あえて、そういう結末を狙って作品を書いておられるんですか。
秋吉:自分では楽しい話を書いているつもりなんですが、小学生の頃に読んだ太宰やカフカの影響が出て、最後は救いがなくなっているのかもしれません。ただ、人生のきらめきだったり、闇だったり、そういったものを拾って書けていけたらと思いながら書いています。
小林:テーマはどのように選ばれますか。
秋吉:いろいろなものに目を向けますが、修道院を舞台にしたいと20年ほど温めています。ジェンダーや社会的なものも。今は中学受験ものを書きかけています。
小林:大阪を舞台にした新作「月夜行路」もありますね。
秋吉:大阪って文学の町なんですよね。江戸川乱歩は大阪の新聞社に勤めていましたし、乱歩のデビュー作は大阪で書かれました。「月夜行路」は大阪の文学の謎解きミステリーです。乱歩のほか織田作之助や近松門左衛門とか登場します。
小林:大阪の文学もそうですが、大阪早稲田倶楽部は多士済々な方がおられるので、取材いただいて小説になればいいですね。
秋吉:先輩方のところに伺わせてください。お願いします。
小林:ネタの仕込みや締め切りに追われたり、大変でしょうね。
秋吉:全然書けない日もあれば、30枚も書けた日もあったり。ムラがあるんです。連載を三つ抱えていたころ、10日に1回、締め切りが来て休めなくて死ぬかもしれないと思いました。リサーチでは大正時代を舞台にしたミステリーの折、歴史的なことが関わってくるので、たった一行書くために百冊ぐらい資料を読んだこともありました。時間のマネジメントは大変ですが、その一文が書けたときは、すごくよかったって心から思える瞬間なので、それは、後悔もまったくなく、そういう丁寧な作業はしていきたいなと思っています。
小林:作家さんで、神様が降りてきて、勝手に筆が動きましたというのを聞いたことがありますが、そんなことってありますか。
秋吉:あります、あります。本当に煮詰まってしまって、何も思い浮かばないけど、締め切りが迫って、でも、もう無理。作家辞めますみたいに思っているときがあるんですけど、本当にあっ、これって、あの話とあの人がつながるじゃないかと、はっと思うことがあって、そっから、ばーと書いて、仕上げて、ギリギリ間に合うということがあるので。降りてくるって感じ、本当にあります。
小林:それは、いつもじゃなくて。そのうちおりてくるから、のほほんと、してたらいいというわけでもないんでしょうね。苦しまないと。
秋吉:そうですね。苦しんだ後の、神様からのご褒美かなと思ってます。
小林:出版社からの依頼も多いと思いますが、これから先はどのような執筆活動をされますか。
秋吉:今、5年先まで、いっぱいいっぱいで、1作、1作を地道にこなしていくしかないなという感じです。新しい連載も始まります。それようのネタを考えなくてはいけないので今、本当にパニックになっていますが、みなさんに応援いただいて嬉しいです。
小林:ありがとうございました。秋吉さんは倶楽部の誇りですのでお身体に留意され、ご活躍ください。