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Wフォーラム 講演会「One Planet ,One Ocean 海の流れが運ぶもの」

【6月6日Wフォーラム講演会報告】
近畿アカシア会・関西大学・大阪早稲田倶楽部 合同講演会報告
(講師:東京大学総長特使/大気海洋研究所 特任教授 道田 豊 先生)

 6月6日、関西大学梅田キャンパス701号室で、近畿アカシア会(広大附属高校同窓会)、関西大学、大阪早稲田倶楽部の三団体による合同講演会が開催されました。
 講師の道田豊先生は、大阪早稲田倶楽部会員・豊島秀郎氏と広大附属高校の同窓というご縁から登壇が実現しました。また、会場については近畿アカシア会の伊藤淳・関西大学工学部名誉教授にご尽力いただき、同梅田キャンパスでの開催が叶いました。さらに、道田先生は2012年から早稲田大学教育学部でも講義を担当されておられるとのことで、当倶楽部とのご縁の深さを感じる機会ともなりました。
 当日は三団体から多数ご参加を頂き、ご用意いただいた広い会場もほぼ満席となりました。司会は近畿アカシア会のメンバーで早稲田大学法学部卒の平松兵悟氏(元国税局)に仕切っていただきました。

■講師紹介
 道田先生は「海洋物理学」を専門とする、日本を代表する海洋科学者です。東京大学理学部地球物理学科をご卒業後、海上保安庁水路部に所属、その後、東京大学大気海洋研究所教授を務められ2024年3月に定年退職されて、現在「東京大学総長特使・特任教授」。また、一般社団法人日本海洋学会でご活躍の傍ら、日本人として初めてユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)議長を務めておられます。

■ご講演内容
 今回の講演では、以下の三つのテーマについてお話しいただきました。
1.海の一般的な話
2.海の流れが運ぶもの(漂着物・海洋プラスチック問題)
3.ユネスコ政府間海洋学委員会と「国連海洋科学の10年」

1.海の一般的な話
 道田先生が海の研究を志された原点は、幼少期の「気象少年」としての興味に始まり、中高で出会った地学の先生の影響を受け、大学で地球物理学を専攻されたことにあるとのことです。卒業研究で流体実験に取り組まれたことが、海洋研究への道を決定づけたそうです。
 日本は領海基線から200海里(約370km)に及ぶ広大な排他的経済水域(EEZ)を持ち、海洋資源の探査・開発、海洋環境保全などに関する主権的権利を有しています。この海域に隣接する場所には、世界最深の「マリアナ海溝」(最深約11km:最深部は米国(グアム)のEEZ内)も含まれ、多様な調査が進められています。
 道田先生は、学術研究船「白鳳丸」での採水等調査に参加された経験や、海上保安庁が運用する漂流型海洋観測ブイによる海流観測の仕組みについて紹介されました。これらのデータを活用し、漂流物の発見地点・時刻から投棄場所を推定する手法の確立にも寄与されました。
 その応用例として、1985年の日航ジャンボ機墜落事故では、漂着した機体片の位置と時刻から、これらの機体片の海上落下地点の推定に貢献したことが紹介されました。
 また、長年の調査を通じ、北太平洋の水深500m付近には塩分濃度の低い特異な層(塩分極小層)が存在することも明らかになりました。
 なお、水深の基準は一般に干潮時の高さを用いますが、船舶が通過する橋梁下の水深は衝突防止の観点から満潮時を基準とするなど、実務上の違いについても興味深い解説がありました。

2.海の流れが運ぶもの
 日本近海では黒潮がよく知られていますが、(黒潮と分岐し、西や南に向かって流れる)黒潮反流など複雑な流れが存在します。2021年には小笠原諸島西方の海底火山噴出物が軽石となって沖縄に大量漂着し、漁業・観光に影響を与えた事例も紹介されました。
 また、手紙を瓶に入れて海に流すボトルメールの漂着経路推定の話題では、黒潮反流に乗った可能性に加え、赤道付近を経由して北太平洋を時計回りに長い距離を循環した可能性もあるとの見解が示され、海流のスケールの大きさを実感させる内容でした。
 近年問題となっている海洋プラスチックごみについては、沖縄・奄美には中国・韓国から、ハワイには日本からの漂着が見られること、プラスチックは微細化が進む一方で長期的な挙動や生体影響が未解明であることなどを説明されました。微細化して海洋に分散しやすいレジ袋の有料化は、市民に海洋プラスチック問題を啓蒙できる象徴的な意義を持つと述べられました。

3.ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)と「国連海洋科学の10年」
 IOCは1960年に設立され、海洋・沿岸・海洋資源の管理向上を目的としています。道田先生は2023年より議長を務められ、現在二期目に入られています。
 IOCはSDGs「目標14:海の豊かさを守ろう」をはじめとする社会課題の解決に資する海洋研究を推進しており、「One Planet, One Ocean(地球は一つ、かけがえのない海)」をスローガンに活動しています。2021年からは「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」を主導し、以下の7つの社会目標を掲げ活動を進めております。

1.清浄な海
2.健康で強靭な海
3.予測できる海
4.安全な海
5.持続的生産の海
6.誰もが利用できる海
7.魅力ある海

 代表的な活動成果を紹介すると、例えば「安全な海」では、IOCが設立時から力を入れている津波早期警戒減災システムに関して、太平洋を含む世界の4つの海域におけるシステムの高度化を進めており、これにはわが国も大きな貢献をしています。
 また、「魅力ある海」では、次世代の海の担い手を育成することを主眼に、「すべての人ともに海洋リテラシー」というプロジェクトを強力に推進しています。

■ 質疑応答・懇親会
 質疑応答では、多岐にわたる質問が寄せられました。道田先生は親しみやすい口調で丁寧に回答され、参加者の理解を深める時間となりました。質疑の一部をご紹介します。

●地球温暖化の真偽について
 ➡温室効果ガスによる地球温暖化の進行は間違いないと思う
●海洋生物によるプラスチック分解とマイクロプラスチックの生体影響
 ➡貝の中には、岩も溶かす粘液を出す種があり、その粘液がプラスチックも分解することが解った。分解され生成されたマイクロプラスチックが、生体内組織と結合して脳機能等に悪影響を及ぼす論文が欧州の学者から出されているが、その真偽は懐疑的な点もあり疫学的調査が待たれる。
●海藻育成による 二酸化炭素 削減の可能性
 ➡藻場や干潟など海洋生態系における温室効果ガス(二酸化炭素)の吸収・貯留機能により、海洋における温室効果ガス削減を目指す「ブルーカーボン活動」で取り組んでいる。海藻のホンダワラ等が二酸化炭素を炭素に変換しての固定量が大きく、削減効果がある。なお炭素が固定された海藻が、短期間で分解してしまったら、二酸化炭素が大気中にまた放出され削減とならない。固定化した炭素を長期間元に戻さないための取り組みが課題となる。
●海水の深層部の年代をどのように測るのか
 ➡科学トレーサーを用いて、深層流内におけるトリチウムや炭素同位体の半減期、あるいは海水中のフロンの分布から推定。

 講演後は、ホテルグランヴィア大阪19階「アヴ」にて合同懇親会を開催。医療・生物分野に詳しい方々が集まったテーブルでは、道田先生も交えて、海洋プラスチックの人体影響などについて熱心な議論が交わされました。
 本企画の立案・調整にご尽力いただいた豊島秀郎様・恵子様ご夫妻に深く感謝申し上げます。

文責 加藤直樹(昭和58理工)

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